「了解。では続けます。俺はこの罪人の起こした『料理が王の口に偶然合わなかった』という罪には賛同しかねます。それは単に王の好き嫌いの問題で、普通に俺は美味しいと思いましたし。王家の人間で昨夜の料理を不味いと仰ったのは王、貴方だけでした。ですが、」

民は息を飲んだ。
この青年は処刑されたがっているのか?

「ですが、俺は貴方に否を唱えません」

王は黙ったままだ。栄誉ある罪人はは先程までの期待を奈落に突き落とす今の発言に言葉を失っている。民も同様だ。

「何故なら、どんなに理不尽な刑罰を与えようが許される存在が貴方なのだから。“王”とは国の最高権力であり、我々とは一線を画した存在です。王の命令は我々民の全てであり、守るべきもの。つまり王が極刑と言ったなら無罪であろうと有罪です。」

暴論とも言うべき発言に王は口に笑みを浮かべた。青年はなおも続ける。

「王は我々に罪状は『料理が口に合わなかった』と伝えられたけど、敢えて言い直そう、彼の、栄誉ある料理長の罪は『唯一無二の我らが王を“不快にさせた”』事だ、と。だから王を俺が不快にさせたなら俺は罰を受けますが「それは可笑しいだろう…!!!」何がです?…料理長」

民の視線は捕らわれた栄誉ある罪人に向けられる。男は叫ぶ。

「貴方は…!エーレ殿!貴方は間違っている…!貴方の言うそれは正しく盲信そのものです!王が全て正しいのであれば滅びていく国などありません。王は、王と言えども神にあらず!全てが正しいなんて事は人間が人間である限り有り得ない事です!それが分からぬ貴方ではないでしょう…!」

男の最後の最後の、そして暴君と呼ばれる彼が王座に就いてから初めての面と向かっての王への真っ向からの批判に青年も王も、そして民も目を見開いた。

「罪人。今自分が何を言っているのか分かっているのですか?」

青年の問に男は王から目を逸らさずに頷いた。

「殺せ」

誰もが、黒衣の青年もが息を飲んだ。

「エーレ、そなたにその愚物の処分を命ずる。王の所有物たる国民が王を批判する事などあってはならぬ。殺せ!殺すのだ!エーレ!」

エーレは自分の信念を否定する男に動揺したが、王への忠誠か、腰に下げた剣を抜いた。
民は反逆者から目を離さない。
男は王から目をそらさずに、叫んだ

「王よ!俺は!貴殿が王座に就く以前からずっと貴殿を見て来ました!日々努力する貴殿を尊敬し、敬愛していた!」

「殺せ!殺せと言っている!」

エーレは剣を振り上げた。
その目に迷いは…ない。

「だが俺は…!今のお前を王と呼ぶことはな」

ザシュッ

沈黙が場を支配する。王も、処刑したエーレも、観衆たる民も一言も発さなかった。発せなかった。

「…裁定は終了だ。王に忠誠を誓い、各々努力しろ。」

エーレの一言で王とエーレは姿を隠した。

残された民は何も言わない。誰も動かない。騎士団の人間でさえも動くことは無かった。

「ふざけないで…」

か細い女の声に皆がそちらを向く。愛する、尊敬する夫を『王を不快にさせた』という理由で亡きものにされた妻は口を震わせる。

「そんな理由で、そんな、くだらない理由、で、うばわれていい、いのちなんて、あるはずが…ないでしょう…!」

諌める者など誰もいない。最後に恐怖から抜け出して暴君を批判した彼の思いは彼等の本心なのだ。

「…もう我慢できない」
「何人殺された?裕に千は超えているだろう」
「俺の妻が」
「私の兄が」
「僕のお姉ちゃんが」

沈黙。

「料理長の、栄誉ある努力の象徴の死は無為にしていいもんじゃねぇ」

民の目に迷いは、恐怖は無かった。



「革命だ」