ざわざわと人々が囁く声が場を埋め尽くしている。人々はある人は青ざめた表情で、ある人は泣き叫び、ある人は同情の目で、ある一点を見つめている。その注目を現在一心に浴びている人間のうちの1人であるまだ幼さの残る黒衣の軍服を纏った青年は、無表情のままぼんやりと、無気力な、しかし美しく輝く金色の目を彼の唯一の王に向けていた。

「王よ」

遂に青年が口をひらいた。その透き通った声を皮切りに、喧騒は形を潜め、静寂が場を包んだ。
青年は続ける。

「罪人の処断は如何様に?」

無感動に続けられた言葉に人々は息を飲む。
青年の横には幾重にも縛られた1人の男が青ざめた表情で俯いたまま座っていた。罪人と呼ばれた男は自分を表す言葉が青年から発せられた事でビクリとその身を震わせ、そろそろと首を持ち上げた。
男の目の前にいる豪奢な装飾の衣服を身に纏う、王と呼ばれた人物はじっと男を見つめていた。余りに無感動、無関心。その無機質な目は男を、そして周りの観衆を恐怖に陥れるのに十分なものなのだ。
捕らわれた男はその身を大きく震わせる。

「極刑に処する」
王が一言発したその言葉に男は唇を震わせた。
喧騒が再度場を埋め尽くす。

「俺は…!」
男は思わず口を開いた。

王は目を細めた。数多くの民を処刑して来た王にとってその憐れな罪人の最後の足掻きなど、特別珍しいものでもない。
黒衣の青年は面倒そうな表情を浮かべている。


「俺が…!俺が一体何をしたっていうんだ!」
男は叫ぶ。余りにも理不尽な判決だ。家族もいる彼は今、そんな判決で死ぬ訳にはいかないのだ。
自身を取り囲む観衆の中には涙する妻がこちらを見ている。諦めるわけにはいかなかった。