毎年、好きな子からのチョコしか受け取らない。


カッコつけてるわけじゃない。


たとえ義理でも、好きでもない子からもらってもしょうがない。


欲しいのはひとつだけ。



みんなもそれをわかっているからか、「義理チョコいるならあげるけど、どうする?」なんて訊いてくるけど、暗に「どうせ受け取らないんでしょ」って言われてるように感じる。



だけど、その好きな子からもらえなきゃ意味ないよな。



俺は開いたまま右手で握っていた携帯を閉じて、そのままベッドの上に投げ出した。



そのとき、不意に手がズボンの右ポケットにあたり、何か入ってることに気付いた。



なんだったかな、と腰を浮かしてポケットの中を探ると、何かが手に触れ、カサッと小さな音がした。



それを取り出して、俺は思い出した。



携帯の代わりに右の手におさまった、それは一粒のキャンディー。



これをくれたのは彼女だ。



「キャンディーいる?」

と訊きながら笑ったその顔がとても眩しかった。


肩を過ぎたところでまっすぐに切りそろえられた黒髪と大きな瞳。


白い歯をのぞかせた、健康的なピンクのふっくらした唇。


それらで俺を魅了する彼女。


かけられた声が「チョコいる?」だったらよかったのに。



彼女からなら、たとえ義理でも受け取る。