「菜緒ちゃんこっち」


「お、おはよ……」


ひらひら手を振る裕一郎くんはシンプルだけどお洒落な格好をしていた。

トレーナーとレザージャケットのレイヤードも難なく着こなせている。純粋にすごいと思った。涼ちゃんには無理だ。


「今日は映画を観よう。前売り券も買っといたよ。その後はご飯食べよう。もちろん予約もしてる。それからは適当にぶらぶらして……そうだな、カフェとか入る?」


「……全部、お任せするよ」


謙虚だなあ、とくすくす笑って、裕一郎くんは歩き出す。


「……いっこだけ聞いていい?」


「どうぞ」


「裕一郎くんは、コーヒーに何か入れる人?」


「……ううん、ブラックで飲むかな。どうしたの?」


「うぅん、なんでもない」



涼ちゃんは男たるものブラックコーヒーをと思っているらしい。

だけど苦いものが苦手な涼ちゃんはブラックでは飲めない。


だから見ていない隙にこっそり砂糖だけ入れてるんだ。ミルクは色が変わっちゃうから入れないらしい。



「僕もひとついい?」


なんだろう、と思って裕一郎くんの目を見上げる。


「菜緒ちゃんの好きな人って、二つ年上の人?」