「だけど、1回しか言ってくれないなんてやだ…。」


「…えっ?」


予想外の言葉に、俺は耳を疑った。



「もっと沢山言って。これっきりなんてやだよ…。」


思いもしなかった彼女のわがまま。


泣きながら笑う彼女の表情を見て、俺も自然と笑顔になった。



「何回も言ったら、有りがたみがないだろう?」


「毎日言ってよ。」


「…無理。」



彼女はまだ少しだけ目に涙を浮かべて笑うと、姿勢を変えて俺の腰に両腕を回した。


そして俺の胸に頬をすり寄せると、彼女は言った。



「さっきの言葉、プロポーズみたいだった。」


「あぁ…。」


思い返すのも恥ずかしいけれど、俺はそういう事を言った。


「そう思ってくれてもいいよ。」


「そうなんだ。」


“フフフッ”と微笑んで、彼女は目を閉じた。



「だけど…。」


俺の言葉が続いた事で、彼女は俺の顔を見上げた。


俺を見つめる彼女の瞳が揺れている。




「だけどその時が来たら、もう一度ちゃんと言うよ。」



そう言って、微笑みながら頭を撫でると、


「せんせぇ…。」


彼女の顔が、また涙と共にクシャッと歪み、


俺はそんな彼女を抱き寄せて、何度も頭を撫で続けた。




「だからその時が来るまで、ちゃんと覚えててくれよ…?」




俺は彼女の顎を軽く持ち上げてキスをした。


約束のキスだ。


震える彼女の唇は温かくて、


やっぱり涙の味だった。


そして、




“愛おしい”




この気持ちが俺の全てだと、


そう、感じていた―…