ひとつ隣の市。
その県境の辺りにあるそこが、私の実家のある町だ。


けれど民家は少ない。
もちろんコンビニもない。


「お父さんたら、また!!もう!!だらしない!!」


「ごめんごめん、いいじゃないかこれくらい。そう怒りなさんな」


「怒りもしますよ!!」


山あいの、小さな平屋建ての一軒家の庭先で父と母が言い合っている。
いつもの光景だ。


「まあまあ、2人とも」


言って、薪を束ねて運ぶ弟が、私に気付いて1枚ポロっと落とす。


「わっ、びっくりした!!なにしてんの姉ちゃん!!」


「姉ちゃん??心花!?帰ったの!?」


「…ただいま…」


頭を掻きながら。
背後からやって来た洸亮さんが、


「こんにちは」


「え"っ?!何!?彼氏!?母さん!!大変!!!」


両親揃って出てきて驚く。
それもそうか。
男の人と帰ったの、初めてだもんね。


「何なに!?イケメンじゃん!?背も高いし!!」


今年大学を出て、建築関係の仕事に就いたふたつ下の弟、柚季(ユウキ)。


今どきの若者だ。
合間の休みに帰って家の手伝いをしてくれる。