マルを放すと、咄嗟に血の滲んだ私の手を舐めた。


「………っ??」


―――時間が止まった気がした。こんなことする人なんだ。


「き、汚いです!!雑菌が!!」


ただでさえ病み上がりなのに。


「…ああ、悪い」


ハッと我に返ったように離れると、バッグから絆創膏を取り出して、手を引かれて洗面に向かう。


蛇口を捻って水を出すと、そのまま手を出して石鹸で洗われる。
されるがままだ。


持っていたタオルで手を拭くと、口を使って片手で絆創膏を開け、傷口に貼ってくれた。


「…あっ、あの、ありがとうございます」


「…マルの癖だ。初対面の人間には何かの拍子に噛み付く。油断したな……痛くないか」


言って、目も合わさずに眼鏡を直してマスクを掛け直す。


思いがけない優しさを垣間見て、ドキッとしてしまった。


「だ、大丈夫…です」