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「………う…」


ベッドで気が付いた董坂。
布団が掛けられ、横になっている。


自力で入った覚えはない。
とすると。
同じ室内とはいえ、橘さんがあの小さな体で運んでくれたのか。


「……どこに…??」


「にゃあ」


と、
仔猫がソファに置いたままのリュックに呼び掛けるように鳴いた。


荷物はここにあるよ、と言っているようだ。


「…ああ、ハナ、おいで」


ハナと呼ばれた仔猫がぴょん、とソファからベッドに飛び移る。


起きようとしたけれど、気分が悪い。くらくらする。


枕元の薬を探り取ると、なんとか起き上がって台所に行く。


「ハナのごはんはあげてくれたのか。じゃあ、何か買いに行ってくれたのかな」


とりあえず蛇口を捻ると水を汲んで粉薬を飲む。


「胃薬もあるとはいっても空腹はまずいな。そこのコンビニか。見に行こう…ああ」


体を引き摺るように玄関を出た。


そして。
見てはいけないものを、いや、見る必要のないものを見てしまった。


エントランスのガラス越しに。


何かを話しながらタクシーに乗り込む心花と、記憶の片隅に覚えのある若い男―――。