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「そういえばあの万年筆って、大切なものだったんですか??」


朝になり、身支度を整えながら、ふと思い出す。


「……亡くなった母の、プレゼントです。大学に入学したときの。でも落としたのはわざとです。…心花さんをうちに来させるための」


同様にシャツを羽織る櫻さん。
なんとなく火照った胸板が色っぽい。


「わざとって??そんなことしなくても…」


「店長は知り合いですが、見ず知らずの男の部屋にそう簡単に来ないでしょう」


確かに警戒するな、普通は。


「口実というか、きっかけが欲しかったんです。そうでもしないといつまでも客と店員の関係から進めませんからね。…僕の一方的な片想いでも」


またそっと抱き締められて、ドキドキする。


「気付いてなかったでしょうけど、きみのレジにしか並ばなかったのもわざとです」


「えっ!?じゃああのときわざとって言葉が出たのも」


前にいた煙草の人に絡まれたときだ。


「僕がわざとだから、ですね。でもそれ以上は言葉は交わせませんでした。また可愛くなってたから。………彼氏がいると思って」