今、いる場所わかっているの?
あなたは、大嫌いな桜吹雪に取り囲まれてるんだよ。そう教えてやりたい。


特に公園の一番いい場所を陣取るソメイヨシノ、と記されたこの木は彼の嫌う人工的な桜の代表例。


「この桜は今でもつまらない?」


ざらめく幹に触れると、木の呼吸を感じる。
とてもつまらないなんて、私は思わない。


「ああ、つまらないよ。一斉に出会って一斉に生きて一斉に別れる。そんなもの限りなくつまらないね」


「私は好きだよ。そういうの、いいなって思う」


「君とはいつまで経っても分かり合えないな」


「でも、」


ゆっくりと、息をして木の呼吸に合わせる。


「じゃあなんで私に会いに来たの?」


彼が小さく息をのむ音が聞こえた。その仕草に私は満足する。

やっぱりこの問いは間違っていなかった。

さわさわとした風の音、淡いピンク色で視界が埋まり彼のことを見逃してしまいそうになる。


気の遠くなる程に長い長い沈黙のあと、降参とでもいうように彼の頰が綻んだ。


「……いいと思ったから」


するりとこぼれ落ちるように、言葉が優しく降りてくる。

ゆきは春になると消えて溶けてゆく。

それが自然の摂理だから。


きっと彼が春になると消えてどこかで現れるのもまた、自然の摂理。


「一緒に生まれて生きて死ぬのも。そういう桜でも、君と見れば嫌じゃないんだろうと思った」


きっと私と一緒にいるのも、そう。

天からの贈り物が、はらはらと舞い落ちる。


私はこの数年。本当に『大丈夫』だった。


彼が戻ってくるのは春に桜が咲くのと同じことだとわかっていたから。

それと同時にまた、私が彼の元へと帰るのも冬に雪が降るのと同じことだということも。