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次の春。
彼は宣言通り、本当に消えた。
咄嗟に彼が消えた驚きよりも、今回も彼が嘘をつかなかったという喜びが勝った。
住んでいた部屋も携帯のアドレスも全部、彼が吸い寄せてそのまま全てブラックホールへでも追いやったんだ。
そう考えると妙に納得出来てしまう。
ブラックホールなんていう非現実的なものも、彼が関わるとしっくり来る。
彼はそういう人だ。
確かに現実に存在しているのに、誰かにしていないと言われれば、私はきっと彼はいなかったのかもな、と思ってしまうのだろう。
そんな私の、恋人が消えて驚きもしない様子は一般的に珍しいのだろう。
彼を知る友人には「無理してない?大丈夫?」と何度か心配そうに声をかけられた。
やっぱり彼は存在していたのか、と友人のその言葉でしかはっきりと自覚出来なかった。
私はその度に友人に微笑んで「大丈夫だよ」と答える。
彼が消えて私の胸にぽっかり穴が空いた、なんてことはなくて、私は次の新しい恋を探し始める。
出会って知って恋に落ちる、別れる。何度も繰り返される季節の恒例行事。
落ちる時は運命だと信じているのに、最後は決まって終わってしまう。
みんな私を枝に残したまま、「お先に」と声をかけて風に乗ってどこか遠くへ行ってしまう。
私はまだ枝に残っていたいだけなのに。