「僕、春になると消えるんだ」


それはあまりに唐突に。隣に座る彼が、言った。

まるで季節外れの花が咲いたことを知らせるような口ぶりだった。


「あ、そうなんだ」


驚きもせず、本当にああ、そうなんだなって思った。

春に桜が咲くのが当たり前のように、自然とそのことを受け入れている自分がいた。


「ああ」


「春は、嫌いなの?」


「嫌いじゃない、だけど消えるんだ」


「……そっか」


彼が消えるっていうなら、確かに消えるんだろうなと思った。

彼が私に嘘をついたことは出会ってから、たったの一度きりだってないんだから。


公園のベンチ、隣同士に座って会話。

寒空を見上げているから視線は合わない。何で冬って空は青く晴れているのにちっとも暖かく思えないんだろう。


タイツにもこもこブーツを履いていても、まだ寒い。

夏と変わらないはずの幹の太さは冬になるとなぜか細々として見える。

風が煽っても、肌を守ってくれる花や葉が冬にはない。

みんな同じ、寒い。


冬と春の狭間、それも冬よりのこの季節は雪が降るわけでも桜が咲くわけでもない。

やっと、梅の蕾が芽吹いて来た頃。