けれど、そのまま、押し切れるだろうと思ったその時のことである。
「ひ、怯むな!攻撃しろ!」
戦闘に立った男が、突然裏返った声でそう叫ぶ。その刹那。
バン!という大きな音が、立て続けに二、三響く。あまりに暴力的な音に、彼女は声をあげそうになるのをすんでのところでこらえた。
何の音かはすぐにわかった。何故なら、戦闘の男が構えていた武器──銃の、口のところから細い煙が上がっていたから。
もちろん、怯えながら乱発したもので、狙いなど定まってはいなかったのだろう。けれど魔物は、何より的が大きい。放たれた弾は、彼の身体に当たってしまっていた。
魔物が苦しげな声をあげるのが聞こえた。茂みに隠れていたエレノアは思わず腰を浮かすが、まるで飛び出すことを制止するように、彼が一瞬視線を寄越す。美しい銀の瞳が、まるで念を押すかのようにこちらに向けられていた。
「っ……」
エレノアは唇を噛んで、茂みの奥へとしゃがみ直す。今自分が出ていったところで何もならないと、彼女はちゃんとわかっていた。
「今だ!続け!」
放った銃弾が魔物に当たったことで勢いを取り戻した先頭の男が、後ろの仲間に向かってそう叫ぶ。
その声を受けて、後ろの男達も怯みから立ち直ったようだった。彼らははっとしたように自らの武器を構え直し、魔物に向ける。
「放て!」
どうやら一行の長らしい先頭の男の掛け声で、弓矢と銃が一斉に放たれる。幾数もの矢と弾丸が、的としては大きすぎる魔物目掛けて放たれた。
(魔物が……!)
動いてはいけない、わかっている。けれど、どうしても飛び出してしまいそうだった。それほどの数が、魔物に襲いかかっていたから。
けれど、彼女が何かしてしまうよりも早く、魔物が動いた。
彼は広げていた翼を、まるで大剣で薙ぎ払うように大きく動かす。巻き起こされた大きな風は、放たれたものの大半を地面へと落とした。
強風に巻き込まれた男達は地面を踏みしめることに必死で身動きがとれない。その隙に、魔物は大きく跳躍した。
見上げるほどの巨体が、驚くほど軽々と宙を舞う。彼はそのまま男達の群れの真ん中へと降り立つと、勢いをそのままに、一番近くにいた男を翼で薙ぎ払った。
男は軽々と吹っ飛び、三本先の木の根本に落下する。辛うじて意識はあるようだが、落下の衝撃で立ち上がることが出来ない様子だ。


