どのくらい、登った頃だろうか。やがて、突然道が開けた。そして、それと同時に。

「……これ、は、何?」

明らかにこの場に──魔物の棲む森に相応しくないものが、エレノアの目の前に、そびえ立っていた。

一段高くなった床と、何本ものの太い柱と、それらが支えるドーム状の天井。汚れて入るものの、昔は真白であったことがわかる、その建物。

そう、建物だ。明らかに人が建てたのであろうもの。人工物だ。

そして、その空間の目的を。この場所に相応しい名を、彼女は知っていた。

「……神殿」

言葉が、喉からこぼれ落ちる。不吉と呼ばれた彼女はそう呼ばれる場に足を運んだことがなかったはずなのに、自然とそうなのだとわかっていた。この場が神のためにあるものだと、言われずとも理解していた。

「……その通りだ」

傍らにいる魔物が、彼女の呟きを肯定する。

「ここは神殿だ。森の神を信じる人々が祈りを捧げ、儀式を行う場所だ。……いや、違うな。神殿【だった】場所、だ」

「…………」

エレノアは、黙って聞いたまま、それを見つめた。

魔物の言葉が正しいのだと、言われるまでもなくわかった。ここは、信仰の場だった場所だったのだろう。今は使われていない、使うもののいなくなった、忘れ去られた夢の跡。

かつてこの地に足を運んで祈りを捧げた人々の影が、彼女には見えるような気がした。あの道がどうしてあんなに歩きやすかったのか、その理由は明白だった。