「食べなくて正解だったな。死に至るまでではないが、一晩吐き続けることになっていただろう」

淡々と紡がれる恐ろしい内容に、彼女は顔を青ざめさせる。見たことのあるものを選んで食べていなかったら、今頃きっとそうなっていたはずだ。

「ちょっと……あの鳥何考えてるのよ……」

「……ビルドは毒があっても普通に食えるからな。俺もあいつに何度かやられてる」

魔物は苦い表情でそう語る。これは経験者の顔だとエレノアは悟った。

「あいつが持ってきた初めて見るものはあまり信用しない方がいい。食べるものはなるべく自分で調達するのが賢明だな」

「……わかったわ」

今日一番大事かもしれない情報に、エレノアは神妙な顔で頷いた。

そんな様子でやりとりをしながら、二人は決して人間向けではない道を進んだ。そうしているうちに、段々と足場は坂道になっていく。屋敷の窓から山が見えたから、もしかしたらあれに登っているのかもしれないと思った。

「このへん、歩きやすいのね」

木の葉の積もったふかふかの坂道を踏みしめながら、エレノアは呟く。

先程までの太い根の交差する道と言えないような道や、膝の高さまで草が生えて首の高さにまで草のつるが垂れ下がっているような獣道とは違って、この坂道は開けていて木々の間隔も広く、とても歩きやすかった。まるで、人が歩くことを想定しているかのように。

「……道、だったからな」

魔物は曖昧にそうとだけ返した。意味を測りかねて、彼女は魔物の横顔を見上げた。けれどそれまで詳しく教えてくれていた彼は、この時はそれ以上何も語らなかった。

道とはどういう意味なのか、過去形なのは何故か。わからないことが多すぎるけれど、魔物は今はきっと、何も語ってはくれない。エレノアはそう悟って、黙って足を進めた。