「あそこに、隣り合った二本の木の枝が一つに繋がっている木があるだろう。あの木を左に曲がって進むと川に辿り着く。目印にしておくといい」

「へえ。わかったわ」

「そのまままっすぐ進むと獣道に入る。お前では少し歩きにくいだろうから、用がないのなら行かない方がいい」

丁寧な説明に、彼女はしっかりと頷く。魔物は横目にそれを見ながら、危なげない足取りで、太い根の張った道の先へと足を進めた。

──魔物に連れられての、森の散策の道中である。彼は思っていたよりも饒舌に、様々なことを教えてくれた。

森を歩くときの目印から食べられる木の実まで、彼女に必要と思われるあらゆる情報だ。今後エレノアが一人で森を歩く助けになる知識をつけてくれているということは、本当に彼女が森へ入っても構わないのだろう。

(親切すぎるくらい、親切よね)

魔物に手を貸されて大きな根から降りながら、彼女はそう思った。はじめのあのかたくなな態度はどこへ行ったのだろうと不思議にすら思えてくる待遇だ。

(嫁として気に入られた、ってことかしら?……あんまりそうは思えないんだけど)

今朝の慌てぶりを思い出しながら、エレノアは内心で首を傾げる。

(生贄として私をどうにかしたいというふうにも見えないし……よくわからないわね)

「……あそこに生えている草だが」

と、魔物が足を止めて話し始めたので、彼女は思考を中断してそちらに耳を傾ける。彼は少し離れた場所にある、背の高い草を指さしていた。

「紫色の実をつけているだろう」

彼の示す草は、確かに紫色の大きな実をいくつかつけていた。ところどころ赤い斑点がついていて、市場ではあまり見かけないものである。けれど彼女にはその実に、見覚えがあった。

「……あ、あれ、ビルドが持ってきてくれた中にあったわ。見たことないから、手をつけないでおいたんだけど」

「毒がある」

「えっ!?」

魔物が告げたまさかの言葉に、彼女は思わず頓狂な言葉をあげて彼を見上げた。