「ねえ、この鞄、私のものなの。あなたの宝物なのはわかっているけど、もらってもいいかしら?」

間違いなく自分のものであると確かめた彼女は、カラスを振り返ってそう尋ねる。カラスはぱかっと嘴を開いて、そのあと、どこか不満げな顔をした。

「エーーー。それ、ビルドがみつけた!」

「わかってるわ。タダで、とは言わないから」

「エ?」

きょとん、と瞬きをするカラスに、彼女は自信満々に微笑んで見せた。



「はい、これとかどう?」

数分後。得意の鍵開けで、見つけた宝石箱を開いた彼女は、中から指輪を取り出してカラスに見せてやっていた。

屋敷の部屋の中から見つけた例の宝石箱である。空だったらどうしようかとも思ったのだが、やはりこの屋敷の持ち主は相当の金持ちだったらしい。この小さな箱に入っていた指輪やら何やらは、カラスに見せているこれ一つだけではなかった。

「ワー!ぴかぴか!」

予想通りと言うか、カラスは思い切り食いついた。この鳥が光る物を好んで取っていってしまうという習性は聞いたことがあったけれど、これほどだったとは。

「じゃあ、これと鞄と交換で良いわよね?」

すっかり興味が指輪に向いたのを見てとった彼女は、内心でほくそ笑みながら持ちかける。カラスは一も二もなく頷いた。

「うん!うん!イケニエ、ありがとー!」

ご機嫌な様子で指輪を受け取ったカラスを尻目に、彼女は無事に戻ってきた鞄にほっと息をつく。

良かった、これで、服やら下着やらの心配はなくなった。ここにも着るものはあるにはあるのだが、掃除をしたり森を散策したりするのには不向きなものばかりだったから。

「ぴかぴかー!ぴかぴかー!イケニエ、すごい!」

あっさりエレノアに凋落されたカラスはと言うと、ご満悦な様子で指輪に見入っている。その単純さにふっと気が緩むと共に、彼女はその自分の呼び名が気になった。

「……ねえ、そのイケニエって呼び名、どうにかならいかしら?」