「アレ?かしらは?」
居間をぐるっと見渡し、そこに一人でいるエレノアと目が合うと、カラスはきょとんと首を傾げた。
「あの人なら出掛けて行ったわよ」
「エ」
彼女が答えてやると、カラスはしゅんとしたように声を上げて床におりた。よく見ると、何かぴかぴかしたものを足に抱えている。どこかで見つけてきたらしいあれを、魔物に見せようと思ったのだろう。
当の魔物といえば、起き出してすぐに獣の姿になってどこかへ出掛けて行った。用事は、聞いていないのでわからない。
「そっかー。またミマワリかー」
「見回り?」
「うん。かしら、もりでいちばんおおきいマモノだから、ミマワリしないと」
「……そうなの」
カラスのところどころ片言な説明を聞いて、彼女は納得する。それで昨日も何度か出かけていたのか。
昨夜の様子を思い出して、少々複雑な気分になる。決して疲れはとれていないはずなのに、休もうとはしていなかった。
「かしらいないなら、イケニエでいいや。みてー!」
少しの間しゅんとしていたカラスは、ふとエレノアを見てそう言うと掴んでいる何かをこちらへ向けてくる。見ると、それは女性もののブローチのようだった。砂をかぶっているが、ぴかぴかしていて鳥が好きそうなものだ。
「……それ、どこで見つけたの?」
森の中にそうそう転がっているものではないと思い、つい彼女はそう尋ねる。カラスは得意げに嘴を持ち上げた。
「きのうのところー。オタカラ、たくさんあった!」
昨日のところ、とは?首を傾げる彼女をよそに、カラスは「まだあるよ!」と叫んで再び飛び上がってどこかへと飛んでいく。エレノアは慌てて立ち上がり、そのあとを追った。


