けれど、元はと言えばそっちが原因じゃないか。エレノアは思いっきり眉を潜めて、彼を見た。
「どうしても何も、あなたがやったことじゃない」
「俺が……え?」
魔物は理解できないという表情を浮かべている。予想はしていたけれど、全く記憶にないらしい。
「水を飲みに起きたついでに、あなたがうなされて暴れてたから、様子を見に来たのよ。そしたら引きずり込まれたってわけ。夜這いじゃないわよ」
「よば……、そういうつもりで言ったわけじゃないが……」
夜這いという言葉に妙に動揺しつつ、男は何やら考え込むそぶりを見せた。
「……うなされていた、か」
どうやら自覚はあるらしい。もしかして、珍しいことではないのだろうか。
そう言えば、魔物の顔は寝起きだと言うのに疲れがとれてすっきりしているとは言い難いものだった。それはそうだろう。寝ているとはいえ、あんなふうに暴れていたのでは疲れもとれまい。どこか疲れたような色の残る顔で、彼は物憂げに何かを考えているようだった。
「……疲れがとれてないなら、もう少し寝ていたら?私は起きるけど」
一応そう問いかけてみると、彼ははっと我に返った様子で慌てて首を振った。
「それは必要ない。……あ、」
そう言って起き上がりかけたところで、男は何かに気付いたような声をあげ、おもむろに視線を下ろす。何だと思って彼女もその視線を追って、彼が声をあげた意味を理解した。
それは、恐らく一晩中エレノアの手首を握り続けていたのであろう、彼自身の手だった。
「……自分が引きずり込んだって、理解した?」
追い討ちをかけることになるとは理解しつつ、ついエレノアはそう尋ねる。彼はまだ、信じられないものを見る目で自分の手のひらを見つめていた。
その時だった。
「かしらー!!あさだよー!!!!」
騒がしい声と羽音を響かせて、カラスが部屋の中へと飛び込んできた。あさだよ、あさだよ、とまるで魔物を起こす道具のように繰り返すカラスは、魔物のベッドに横たわるエレノアの姿を見てぽかんと嘴を開いた。
「……え、あ、ビルド、これは、」
はっとしたように、魔物が彼女の手を離す。それから何かを言いかけたのだが、それよりもカラスの反応の方が早かった。
「……かしら、てがはやいーーー!!!!」


