「アレ?かしら、なんでいるの?さびしかった?」
「お前が俺まで掴んだんだろう……」
そうこうしているうちに小さくなったカラスが男を見て間抜けなことを言い、彼がげんなりした表情を浮かべた。どうやらこの鳥、エレノアだけを運んでいたつもりだったらしい。
「……本当にアホ鳥なのね」
「全くだ」
一連のやりとりを見ていたエレノアが思わず呟くと、それを耳ざとく聞いたらしい男が溜息とともに同調する。二人の間に奇妙な連帯感が芽生えたのだった。
「……それで、さっきの話の続きだけど」
いつまでも、くだらないことを話しているわけにもいかない。閑話休題、と声の調子を硬くしたエレノアが話を切り出すと、男の方もつられたように表情を引き締めた。
「ああ。お前の目的の話、だったか」
「そう。さっきも言ったけれど、私は昔見た魔物のことを知りたいの。あなたは何か知っているの?」
「それには答えない」
一応話を聞く姿勢を見せてくれたものの、彼の態度は先ほど屋敷にいた時と同じ、強硬なもののままだ。予想はしていたことだが、このままでは埒が明かないだろうとエレノアは溜め息をついた。
「……それは、わかったわ。けれど、町に返されるのは困る」
「何故だ?俺はお前の目的を果たす手伝いはしない。だったら用はないだろう。人のいるところに帰るべきだと思うが」
男の瞳には、意見を曲げる気は無いというよそよそしい光が宿っていた。それでも、ここで折れて帰されるわけにはいかないと、彼女は必死に言葉を探した。
けれどそれより先に、彼が続けて口を開く。
「こんな森にいるのはお前だって嫌だろう。人間は人間のところにいるべきだ」
──何気なく言われたその言葉が、彼女の引き金を引いてしまったのだ。


