(……にしても、いつ着くのかしら)
時折大きく揺さぶられながら、彼女は考える。嘴に挟まれていた行きもそこそこ長く感じたが、今も、景色を見る限りまだ着く様子はない。
(ちょっと……痛いのよね)
服の上からとはいえ、カラスの爪が食いこんでいる肩が疼く。そこは、今朝から何度か地面に落ちては叩きつけられている箇所で。
(なんとか爪を外せれば良いんだけど……でも下手にもがいて落ちないとも限らないし……)
痛みを軽減させようと、もぞもぞと体を動かすけれど、それは一向にうまくいかない。足元を高速で流れていく景色も、彼女を怯ませる要因で。
(……我慢するしかない、わね)
やがて諦めた彼女は、せめてどのくらいで着くのか聞いておこうと思った。
「……ねえ、その、森の入口までは、どのくらいかかるの?」
カラスが羽ばたかない合間を見計らって、エレノアは控えめに尋ねてみる。男は一瞬怪訝そうな顔をして、すぐに答えた。
「ようやく半分くらい、だな。ビルドは、それほど速く飛べる訳では無いから」
「そう……」
これでようやく半分か、と失望に似た気持ちをエレノアは覚えた。あとはもう、なるべく痛みを気にしないようにして我慢するしかない。
最後にもう一度、足掻くように右肩をほんの少しずらした。
「……お前、肩を怪我しているのか」
ところが、そこで思わぬ声がかかる。顔をあげると、男がはっとした顔をしてこちらを見つめていた。どうやら、肩をかばう動きをしていることに目ざとく気付いたらしい。
「……ええ、少し」
本当は少しどころではないのだが、つい反射的にそう言葉を濁す。すると、男は予想外の行動に出た。
「……!」
はじめに感じたのは、背中の後ろ辺りへの圧力。持ち上げられるようにされて、ふっと肩へかかっていた負荷が消える。
その次に、目の前に彼の纏う黒い布があることに気が付いて、どうやら抱き寄せられたらしいと理解する。


