はじめに見えたのは、闇を溶かしこんだような黒。
それから、黒の隙間から覗くひどく澄み渡った銀色に、瞳を奪われた。
黒いのは、それが纏っている長い布と、目のあたりまで伸びた髪の毛、それから、頬のあたりに散らばる艶のある鱗だ。
そして銀は、髪の隙間から覗いた瞳の、美しい虹彩。
エレノアの姿をみとめたその瞳は、ひどく驚いたというように大きく見開かれる。薄い唇が、何か言葉を紡ぐようにわななくのが見えた。……どんな言葉を紡いだのかは、わからなかったけれど。
「……っ」
それと同じくらい、もしくはそれ以上に瞳を見開いたエレノアの喉から、声にならない音が漏れ出す。
それほどに、驚いていた。自分の瞳が映す、その場違いな姿に、戸惑っていた。
なぜなら"魔物"は──人間の姿をしていたから。
「…………」
「…………」
暫し、時が止まったかのように、二人──と数えていいのだろうか、エレノアと、彼は見つめ合う。互いの瞳に、よく似た驚愕の色をたたえながら。
どうして、人が──?
彼女はひどく混乱していた。あんなに大きなカラスを使役するほどの魔物なのだから、どんな化け物じみた風貌をしていても怯まないようにと、覚悟までしていた。
けれど、彼は。目の前にいるこの存在は、肌にいくつか鱗のようなものがあることの他は、エレノアと変わらない人間のように見えるではないか。
まじまじと、男を見つめる。まとうローブのような布のせいではっきりとした体型はわからないけれど、背は高く、細身のように見えた。歳の頃は、エレノアよりもいくばくか上だろうか。
人間の姿をした彼は、純粋な驚きでその瞳を染めて、こちらを凝視していた。
「………………」
「………………」
はじめの衝撃は、過ぎた。それでもまだ、一人と一人は、まるで時が止まってしまったかのように互いを見つめていた。


