黒き魔物にくちづけを


(かしら……頭?このカラスの、ボスってことかしら?)

確かに、そうやすやすと首領が現れるとも思えない。このカラスが使いだとすれば、首領は相当な大きさなのでははいだろうか。

(まあ、どうせ食べられるんだとしたら相手の大きさは関係ないわよね。このカラスと違って、話をちゃんと聞く魔物だったら良いんだけど)

食う前に、エレノアが知りたいことを教えてくれればいい。彼女はそう考えながら、決して快適とは言えない空中飛行に身を任せた。




飛んでいた時間は、そうは長くなかった。十五分ほどか、あるいはもっと短いのか。

それまで安定して上空を飛んでいたカラスが、急に斜めになったのだ。目的地について降下しているのだろうが、これで滑り落ちたらかなわないと少々肝を冷やした。

幸運な事に落とされることもなく、カラスはゆっくりと地上へと近付いていく。先ほどのように頭を仰け反らせた彼女は、進む先、森の中へぽつんと佇む洋館を見つけた。どうやらあれが目的地なのだろうか。

衝撃に備えて歯を食いしばるが、思っていたよりも静かに着地する。

そこは、洋館の入口だった。

カラスは咥えた時と同じ唐突さで、エレノアを放した。嘴から投げ出された彼女は、なす術もなく地面へ落ちた。

「いっ……」

朝打ち付けたところと同じ箇所をぶつけて、呻き声がもれる。これは確実に痣が出来るだろう。

カラスめ、食われる前に絶対やり返してやる、と密かな決意を燃やすエレノアの前で、当のカラスは驚くべき変容を遂げようとしていた。

身体が、小さくなっていくのだ。

それまでエレノアよりも大きかったのが、両手で抱えられるほど──普通のカラスと同じくらいのサイズにまで、まるで風船がしぼんでいくように、縮んでいったのだ。