それまで黙っていたエレノアだったが、その言葉には首を傾げ、周りの反応を伺った。魔女の印とはどういうことか。その言葉を耳にするのは初めての事だった。ひとまず動揺を悟られないように、と辺りを窺ったエレノアは、周りの信者たちが司祭にならうように一斉に膝をついている様子を見て面食らった。

「「お授け下さい」」

司祭の言葉を復唱するように、その場にいる男達が声を揃えてそう言った。この場にいるエレノア以外の全員が、ただの炎に向かって頭を垂れている様子というのは不気味ですらあった。或いは彼女に信心がないから、そう感じるだけなのかもしれないが。皆が頭を下げたまま、しんと空気が静まり返る。何かを待っているようだとエレノアが思った瞬間、それは唐突に起こった。

頭を垂れる対象であった炎が──ゆらりと揺れて、掻き消えたのだ。

「……っ!」

思わず、息を呑んだ。部屋に窓はないし、風が入ってきた様子も、誰かが吹き消した訳でもなかった。それなのに大きな蝋燭の炎がひとりでに消える様子は、何かの──『神』の、力を感じずにはいられなかった。

「おお……!」
「神がお答えくださった……!」

息を呑んで目を見張るエレノアと裏腹に、信者たちからは歓喜の声が上がる。喜色に染まった彼らの顔を眺めて、彼女はそうかと思い直した。確かに、ここに神はいるだろう、そのはずだ。
なぜなら、棄てられた森の神殿とは違って──ここには神を信じる者が、こんなにもいるのだから。

 他人事のようにそんなことを考えていた矢先、わっと上がっていた歓声の波が引いていく。見ると、中央に立つ司祭の男が信者たちを視線で黙らせているところだった。

「皆が見た通り、神は我らに許しと加護とをお与えくださった──魔女の身を暴き、その印を検めることを!」