もう一度、目の前の墓石をまじまじと見つめる。それでもやはり、初めて見たという感じはしなくて。

(……なに、この感じ)

彼女は胸のあたりをおさえる。そこから、何か──大きな塊が、せり上がってくるような錯覚に襲われた。

視界の裏に、何かがちらつく。目の前に見えている小さな墓石と、【何か】が重なる。見えてくる。

「うう……!」

視界が──【何か】に覆われる。

──それは、小さな墓だった。先程見ていたよりも質素で、刻まれた文字も丁寧なものとは言い難い。幻影なはずなのに妙に鮮明に見えるそれを、彼女はうわごとのように読み上げた。

「『アースキン……一家、ここに……眠る……バーナバス、アナベル……ロシュ……、……エレノア』……っ!」

頭にひどい痛みが走って、彼女はこめかみのあたりをおさえた。同時に、今自分が口にした内容を思い出して、戦慄する。

覚えのある──ありすぎる名前が、見えなかったか。

「うっ……!」

ズキン、と追い打ちをかけるように走った痛みに、思わず呻き声が漏れる。

見えたのは、【どこか】の家族の墓だろう。その中に何故、『ロシュ』と『エレノア』という名前があったのだろうか。

(エレノアって、私……?それに、ロシュって……)

『姉さんの目みたい』

夢の中、彼女を真っ直ぐに見てそう言った少年を思い出す。あの中で、彼女は少年をロシュと、そう呼んでいた。

見えたあの墓は──エレノアと、弟のロシュと、その両親の墓なのだ、と考えられるのではないか?

(アースキン……私の、姓……?)

彼女は自分の姓を、覚えていなかった。けれど今、エレノア・アースキン、と口の中で転がしてみると、その言葉は不思議な程にしっくりきていた。元からそうあったかのように、馴染んでいた。

(私と、私の家族の墓……?)