「……ほんとに庭に落としたの?実は飲み込んじゃったんじゃなくて?」

「え……そう、かも……」

冗談のつもりでそう言ったのだが、ビルドは本気で考え込み始めてしまった。否定しないのかと脱力しつつ、ふと、エレノアは庭の端に、妙な石が置いてあることに気がついた。

(……?何かしら)

大きさは、彼女の膝までほどだった。自然にここにあった石ころ、という訳ではなさそうなそれが妙に気になった彼女は、手を伸ばして表面の雪をはらった。案の定何か特別なものだったらしく、そこには文字が刻まれていた。エレノアは身をかがめて、灰色の石を覗き込んだ。

「『愛らしきシロ、我らと過ごした思い出と共に、安らかにここに眠る。』……」

予想より新しいものらしい石の文字は、壊れてもおらず難なく読み取ることが出来た。呟くようにその文字を読み上げて、それがどうやら墓石らしいと気付く。『シロ』という名前と、こんなところに小さくあることから、ペットの墓でないかと推測した。

「……前に住んでいた人が作ったのかしら」

端とはいえ庭の中にあるのだから、恐らくそうなのだろうとエレノアは思った。住み始めてそれなりに経つが、墓があったなんて知らなかった。今度、花でも供えておこうか。

(……にしても、お墓なんて見るの久しぶりよね……。……あれ?)

ふとそんなことを考えたエレノアは、そこで強烈な違和感に襲われた。

(……墓地なんて、行ったことあったかしら?)

懐かしい、などと思ったが、そもそも墓を見るのは初めてなのではないか──。当然ながら、彼女には墓前に花を供えるような相手がいない。しかも、黒をもつ彼女が墓地なんて場所にいるところを見られたらなんて言われるかなど想像に容易かった。行く必要がないどころか、極力近付かないようにしていた墓に、何故自分は『久しぶり』などという感情を抱いたのだろう?