告げられた言葉に、エレノアは目を見開いて、少女をまじまじと見つめた。
「え……恐れてない、って、」
「言葉通りの意味です。私たちが前にいた町のように、黒を忌避する習慣が無いんです。……あ、ほら、この薬なんて、精製の途中でどうしても黒くなってしまうものなんですけど、それでも売れるんですよ」
驚いてぽかんと相手の顔を見つめるエレノアに、少女は店先の薬棚を指し示す。そこには確かに黒い薬が鎮座していて、そのありえない光景に彼女はさらに驚いた。
「……本当に?黒を、不吉を、恐れない人々なんて、いるの?」
少女の顔をまじまじと見つめて、もう一度訊ねる。少女はにっこり笑って頷き、それからはっとしたように曖昧な表情を浮かべた。
「あ……黒を恐れていないのは本当なんですけど、不吉を恐れていない、というのとはちょっと違います」
「え?」
エレノアが訊ね返すと、セレステは考えながらというように、ゆっくりと言葉を続けた。
「この街の人にとって、不吉の象徴は黒ではないんです。……【魔女】、なんです」
「魔女……?」
鸚鵡返しに、彼女はその単語を繰り返す。魔女といえば、お伽噺で定番の存在だ。その名の通り、魔法を使う女。
セレステは頷いて、声を潜めて続けた。
「そう、です。この街や都では、魔女が人々を呪って災いをもたらすのだと恐れられているそうです。なんでも、魔女は身体のどこかに特徴的な形の痣があるんだとか」
そんな話は聞いたことがない、とエレノアは思った。彼女はこれまでいくつかの村や町を移り住んできているが、魔女を恐れる人々と出会ったのは初めての経験だった。彼女がいた、黒を恐れる村々とは広い森を挟んで反対側に位置する街だから、地域差というのもあるのだろうか。


