(私は……今、幸せ、なのかしら)
自分の胸に、訊ねてみる。少し前までなら、まさかと鼻で笑い飛ばせたはずの問いは、エレノアの胸にじんわりと温度をもたらした。
自分の中で、何かが変わっている。その自覚はあった。それが多分、良い変化だということも。
(……幸せがどんなものか、私は知らない、けれど)
エレノアは、考える。彼女は幸せを実感することなく、一人で生きてきてしまった。だけどその、未知である幸せに、今が一番近いのではないかと思うのだ。
(……今は、そう悪くは無いわ)
結局、そう結論を出した。そう悪く無い、今はそれでいいと、思った。
自分の中での『そう悪くない』は、『かなり良い』に分類されるような気がして、自分で考えておきながら、少し可笑しくなった。
*
「じゃあ、そろそろ行くわ」
それからも、色々なことを話し。四半刻が過ぎたあたりで、彼女は帰るべく立ち上がった。
その背には買い込んだ荷物の他に、セレステから何かあった時のためにと渡された薬草が入っている。怪我をした部位に湿布のように貼るもの、病気の時に煮て飲ませるものなど、使い方も教わっていた。
「薬草、ありがとう。ありがたく使わせてもらうわ」
入口まで見送りに来てくれたセレステにそう言って、彼女は下ろしていた布を再び被ろうとする。すると、彼女は「あっ」と声をあげた。
「エレノアさん、その布、必要ないですよ」
そして、予想外のことまで言う。エレノアは首を傾げて、彼女を振り返った。
「どういうこと?ほら、私は目を隠さなきゃいけないじゃない」
自分の黒い目のことは少女も知っていたはずだろうと思いながらそう言うと、それでもセレステは首を横に振った。
「大丈夫です。この街の人は、黒を恐れてはいないんです」
「……え?」


