この水色を、知っている。そう遠くない前、この瞳と至近距離で顔を合わせたことがある。……確か、その時は涙に濡れていて、もっと儚く輝いていて。
「あなた……!」
そこまで思い出して、彼女が誰なのかに思い当たったエレノアは、思わず声をあげた。自分の黒い瞳のことだとか、一瞬忘れてしまった。そのくらい、驚いたから。
突然声をあげたエレノアに、少女は驚いて顔を向けた。そして、彼女の黒い瞳を見た少女は、大きく目を見開く。
「あ……!この前の!」
少女の反応に、エレノアは確信する。彼女は、エレノアと入れ替わった少女──本物の、生贄だった少女だ。確か、名前は。
──『あのね、セレステさん。自分の幸せをつかもうと思ったら、他人のことなんてかえりみちゃだめよ』
そうだ、セレステだ。エレノアはぱっと顔を明るくして、少女の名前を呼んだ。
「どうも、この間ぶり。セレステさん、よね?」
「は、はい……!あの、その節は、本当にありがとうございました!」
叫ぶようにそう言って、セレステは勢いよく頭を下げる。エレノアは目を見開いて、それから、頭を上げさせようと慌てたのだった。
「へえ、そうだったのね!良かったじゃない」
少し時間が過ぎて。店の奥のスペースに案内されたエレノアは、セレステの話を聞き終えてほっと息をついていた。
話によると、少女はあの後、迎えに来てくれた恋人の住むこの街に身を寄せて、結婚したらしい。今は薬師である彼の店をこうして手伝っているという。彼は薬を売りにあの町へも来ていて、その時から少女と交際していたらしい。いずれそうするつもりだったから、と快く少女を受け入れてくれたのだとか。
「はい、ようやく仕事にも少しは慣れてきたところなんです。街の方達は、他所者の私にも優しくて……」
柔らかい表情で話すセレステを、エレノアは眩しい思いで見つめる。彼女の口ぶり、表情の全てから、幸福感が溢れていた。


