買い物も、目的のものは一通り揃った。大きい街だからか割高な感は否めないが、それでも法外な値段という訳でもない。買い物をする機会も今後早々無いだろうからお金を出し惜しみする必要もないし、エレノアは十分満足していた。
(あとは包帯だけね。これを買ったら、早く帰りましょう)
買い込んだ荷物を背負い直して、彼女は最後の目的の品を買うべく、街の端にある薬屋の扉を開いた。
店内は狭いが清潔で、薬品の匂いが漂っていた。来客の気配に、店員が腰をあげる。
「あ、いらっしゃいませ!」
鈴を鳴らすような、高い声が響く。店員の少女のようであった。布を被っているため相手の顔は見えないが、まだ歳若いに違いない。
「包帯を探しているんだけど、あるかしら?」
布を被ったまま訊ねるが、少女は怪訝そうなそぶりは見せずに「包帯ですね、ございますよ」と返事をして去っていく。
(……なんだか、どこかで聞いたような気がする声ね)
少女の後ろ姿を見送りながら、ふと彼女はそんなことを思う。儚さすらたたえた高い声と丁寧な物言いには、なぜか聞き覚えがあった。
「はい、こちらでよろしいですか?」
奥から包帯の入った籠を持った少女が戻ってくる。エレノアは頷いて、「三巻きお願い」という言葉と共に紙幣を差し出した。
「三つですね。すぐにお包みします」
少女は紙幣を受け取ると、わざわざ包んでくれるらしく紙を取り出して作業を始めた。エレノアは、少女が手元に集中しているのを見て、こっそりとその顔を窺った。
綺麗な娘だった。後ろで一つに束られねた灰色の髪、すっと通った鼻筋、ふっくらとした唇──それから、澄んだ水色の瞳。


