すると、それまで黙って会話を聞いていたラザレスが口を開いた。
「うん、それがいいだろう。何かあってもビルドがいれば安心だ。ビルド、わかっているだろうが、エレノアになにかあったら……」
「ミナゴロシ?」
「……そうじゃなくて、すぐここまで連れて帰ってこい」
相変わらずさらりと物騒なことを言うビルドに、魔物は複雑な表情で念を押した。こくこく頷くカラスを尻目に、彼女はつい口を挟んだ。
「……ラザレスって、意外と過保護よね」
森へ行けば迷子になるんじゃないかと心配しだしたり、今朝もわざわざ玄関で待っていたり。これまでのことを思い出しながら言うと、彼は真面目腐った顔で頷いた。
「当たり前だろう。自分の番(つがい)のことを心配しない生き物がどこにいる」
「つが……」
予想だにしなかった一撃に、エレノアは思わず絶句する。些細なことで大袈裟なくらい動揺するのに、どうしてこういうことはさらりと言ってしまえるんだろう!
「……じゃ、じゃあ私もなるべく早く帰ってくるわね。旦那様に心配かけるのは心苦しいもの」
一瞬の動揺から立ち直ったエレノアは、仕返しとばかりに旦那様を強調して言った。やられたぶんはきっちりやり返す主義のエレノアの攻撃は、彼の目を大きく見開かせた。
「あ、ああ、そうか」
口ぶりだけは何とか取り繕ってはいたが、視線は泳いでいるし机の水差しは倒すしで動揺はばればれだった。残念なことこの上ない。
「……かしら、ざんねん」
やりとりを見ていたビルドがぽつりと呟く。カラスにしては珍しく、的を得たコメントであった。
*
「じゃあ、行ってくるわ。ビルド、飛んでいるのは良いけれど、くれぐれも町に近付き過ぎないように。石とか投げられても知らないわよ」
「わかったー」


