「……こんなところね。さすがに全部揃えるのは難しいかもしれないけれど、これだけ足りないものがあるのはやっぱり問題なのよ」
数え終わった彼女は、ラザレスとビルドを改めて見る。二匹は話が見えないといった顔で、彼女を見つめ返した。
金と銀の瞳を交互に見て、彼女は本題を口にした。
「だから、ちょっと買い物に行って来るわ」
「……は?」
数秒、間があった。彼女の言葉をぽかんと聞いていた魔物は、少しして、銀の目を見開いて反応を寄越した。
「ちょっと待て、買い物……って、人間の町へか?」
「あんまり行きたくないけれど、そこしかないでしょうね。大丈夫、旅の人の振りをして、布でも目深に被っていれば目を見られることもないわよ。お金なら、もらった給金がそのまま残っているし」
エレノアは溜息をつきながらそう言う。幸い、被るのに丁度いい大きさの薄汚れた布ならある。
お金は、生贄になった日の朝に店主から貰ってきた分だ。決して多くはないが、その時は屋敷にある宝石類を売れば足しに出来るだろう。
「というわけで、今日行ってこようかと思ってるの。あなたも治ったみたいだし」
「今日……なのか」
ラザレスが治ったら、と前々から考えて、すっかり準備を整えておいた彼女に、魔物は複雑そうな表情を浮かべる。何がそんな反応をさせているのかと首を傾げると、彼は言いにくそうに口を開いた。
「だがその、お前の目の色は、あまり良くないのだろう?行っても平気なのか?何なら俺が代わりに行ってもいいが……」
「え……」
心配そうに見つめられ、彼女は思わずたじろいだ。まさか、そういう理由だとは思っていなかったからだ。


