彼の言葉は、忘れたわけではない。でも、今はひとまず考えないことにしようとエレノアは思った。焦らなければならない理由もないのだから、今自分がしたいようにすればいいと。自分がしたいこと、それは、自分の過去だけでなくて、このラザレスというひとのことをもう少し知ることだった。この不器用で素直なひとのことについて、彼女は興味を抱いていた。それはもしかしたら、居心地が良いから甘えたくなってしまっているだけかもしれないけれど。
とにかく、森で暮らす。死に場所として身一つで森へ飛び込むのではなくて、暮らしていこうと、改めて彼女は思っていたのだった。
そして、暮らすにあたって避けられない問題がひとつ。
「……物が、足りないのよね」
エルフらがくれた果物を腹におさめた後(ちなみにラザレスも同じものを食べた。彼は人の姿の時はエレノアと同じものを食べている)、彼女はそう切り出した。
「モノ?どんな?」
狩りという名の食事を済ませて帰ってきたビルドが、彼女の言葉にきょとんと首を傾げる。彼女は指折り数えながら一つ一つ挙げていった。
「まず布。ラザレスの包帯で、屋敷にある使えそうな布はほとんど使ってしまったのよね。残ってるのは下着みたいな薄いやつばかりだからどうにもならないのよ。だから包帯と、あと、これから寒くなるでしょう?防寒着は買っておいた方が良いわよね。それと、何かあった時の薬くらい備えておいた方がいいわ。あとは調理器具ね。壊れていたものが多かったから。洗剤も買っておいた方がいいかしら。それと……」
つらつらと暮らすにあたって必要なものを挙げていくエレノアに、二匹の魔物は押されたように黙り込んだ。きっと、その方面に関してはさっぱりなのだろう。当然と言えば当然だ、彼らは魔物なのだから。


