──魔物の熱が下がってから数日。二人ははじめの頃よりもいくらか打ち解けてきたように思える。言葉数の決して多くない彼の考えていることが、少しは表情から読み取れるようになった気がしていた。むしろ彼は考えていることが割とストレートに表情に出る方で、彼女はそんな彼の顔を好ましく思っていた。
特に、誤魔化したり嘘をつくのが極端に下手くそで、すぐ顔に出てしまうのだ。そんな彼の様子はいっそかわいらしく思えてくる程で、どうしても彼女には、この男が悪い人だとは思えなかった。
(今朝も、面白かったわ)
ふと朝──目覚めた時のことを思い出した彼女は、ラザレスに見つからないように小さく笑いを漏らした。
昨晩も、例によって夜中に彼女は目を覚ました。また昔の光景らしい夢を見て、居心地の良くない思いをした彼女は、ふと物音を聞いたのだ。
予想通り、それはラザレスがうなされている音だった。はじめの日ほど派手に暴れていたわけでは無いものの、その息はやはり苦しそうで、彼女は迷わずに扉を開いていた。
そして──まあ、お察しである。また寝ぼけた男は、彼女の腕にすがり付いて離そうとしなかった。もう何度目かのことですっかり慣れていたエレノアは、特に抵抗もせずに彼のベッドの中へ潜り込んだのだ。
抱えるものがあると無意識に安心するのか、それとも人の温度が良いのか、あるいは両方か。ラザレスは、エレノアを引き込んだ日はそれ以上うなされることなくよく眠れているらしい。同じように彼女も、抱き枕にされながら眠りにつくと、体勢はあまり良くないはずなのに朝まで起きないのだ。
とにかく、睡眠に難を抱えている二人は、昨晩も寄り添うようにして眠りについた。そして、うなされたり目が覚めてしまうことなく朝を迎えた、のだが。
顔やら髪やらへの控えめな刺激を感じて、エレノアは意識を覚醒させた。誰かに触られているようだ。そして、その【誰か】の正体に気付いて、彼女はゆっくりと瞼を開けた。
「……おはよう。私の顔に何か付いているの?」
至近距離で、自分の頬に触れている男の顔を正面から見据えて、彼女はそう言った。──その刹那、ひどく動揺したラザレスは、彼女から手を離した拍子に、派手にベッドから転げ落ちたのだ。


