隣の席になってからというもの、隣の大竹が気になってしょうがない。自分がどう相手に写っているのか、自分が変な行動を起こしてないか、一挙一動が気になってしょうがないのだ。
なんだか疲れる...
一番最悪なのは給食の時だ。何て言ったって班にする時は向かい合って机をつきあわせて食べなきゃならない。
ご飯をいつもの半分位少なく口に入れる。音を立てないように咀嚼して、いつもよりゆっくりゆっくりよく噛んで食べる。
ああ、なんて疲れるんだ。
たまに話しかけられたりするとすごく緊張する。
だって目をみて話しかけられたら赤面して倒れそうになるのだから...平静を保つのに必死で給食の味など分からない。
「瀬山さんって好き嫌いないの?」
唐突に聞かれた質問に頭が理解してくれずフリーズする。
「...あぁ、ない...かな...。」
気の効かない返しに後悔の波が押し寄せる。
「あっ!でも酸っぱい食べ物苦手かも!大竹は?」
なんとか言葉のキャッチボールをする。
「俺もないかな...。」
話しが途切れる。二人きりじゃないのでそれ以上何を返してよいのか分からない。もし私が何か話を持ちかけたらこの気持ちがバレてしまうかもしれない。考え出すと止まらない渦の中、ふと疑問が浮かぶ。
「ねぇ、なんでそんな事聞くの?」
杏里は訝しげに聞いた。
「いや、なんとなく。いつも給食残さず食べてるから。」
「ふーん...。」
この人は天然なのか。いつも給食食べてる所やっぱり見られていたんだ。なんだか嬉しいのか恥ずかしいのか分からない気持ちで杏里は胸がいっぱいだった。
放課後。
今日は週二回の部活の日。
昔から絵を描いたり何かを作ったりすることが好きだった杏里は中学に入ったら絶対に美術部に入ろうと決めていた。
もう入って三年。いつもこの美術室が落ち着く場所だったが、後少しでサヨナラか...などと思うとサボらず毎回足を運ぶようになった。
美術部の顧問は無愛想で少し怖かったが、必要な言葉しか発しなかったぶん集中して絵を描けた。
今日はなんの課題だろう、クロッキーは苦手だからやだな。途中だった牛骨の絵があるけど...。などと考えながら好きな席に座る。
すると顧問が美術準備室から出てきた。歩きながらこちらを見ようともせず、吐き捨てるように
「クロッキー」
とだけいうと描きかけの自分の絵を持って教卓の前に座った。自分の世界にもう入り込んでいた。
最初は誰がモデルになるかから話し合う。みな誰もモデルになりたくないので押し付け合い、最終的にはジャンケンで決める。今日負けたのは杏里と同じクラスの男子だった。
嫌そうな顔をしながら木製の四角い椅子に立ち箒を持って静止する。
それを生徒等が丸く囲むように机を持っていき、各々のスケッチブックと2Bの鉛筆を片手にひたすら模写する。
人物を書くのが苦手な杏里。
小さいため息をつきながら席につきスケッチブックを広げる。
鉛筆をひたすら走らせる音だけが響く。
誰も喋る者はいなかった。
「休憩」
沈黙を破る声は顧問の声だった。
モデル役の男子は疲れたのか首を押さえながら頭を傾け、椅子から降りる。
もうこんなに経ってたんだ。杏里は苦手ながらも時間を忘れ、夢中で鉛筆を走らせていた。
遠くの方から沢山の足音と喋り声が聞こえる。どうやら校庭の方から部活の生徒達が来た音だった。
「あっ!まただ。」
同じクラスの風間理香が声を発した。
すると女子はカーテンの寸法が足りていない窓を背にして目を覆う。
野球のユニフォームを着た生徒達が美術室の窓の前で止まり、着替えをし始めた。美術室の前には水道があり、そこで毎回野球部員達は水を飲んだり汗で濡れた身体を洗ったりしているのだ。濡れた上半身が横目に写り混む。
キャーキャー言う声と共にまた理香が声を発した。
「もう先生、いい加減カーテン買い換えて下さい!」
抗議する声をよそに顧問は冷静に言う。
「見なきゃいいんだ。あんなの。」
少し笑った顔が珍しくて杏里は先生の顔から目が離せなかった。先生だって女の人なのに...まあ大人だし見慣れてるか。
正直杏里も理香に同意見だった。目のやり場に困る。見たくないのに見たと言われるのは凄く癪に触るし、なんといっても目の前で着替えてる野球部の部員の中にあの大竹がいるからだ。
今描いていたスケッチブックのクロッキーに目を移し集中するふりをする。
耐えかねて横目で盗み見すると、細いわりに骨格にのる筋肉が綺麗な大竹の身体が目の端に飛び込む。それと同時に大竹の頭が持ち上がり目と目が合った。
一瞬で目をスケッチブックにうつす。
失敗した。目が合っちゃった。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!
胸の高鳴りを抑えながらスケッチブックで赤面した顔を隠した。そんな杏里を理香は怪訝な顔をして見ていた。
杏里は全然気がつかなかった。
なんだか疲れる...
一番最悪なのは給食の時だ。何て言ったって班にする時は向かい合って机をつきあわせて食べなきゃならない。
ご飯をいつもの半分位少なく口に入れる。音を立てないように咀嚼して、いつもよりゆっくりゆっくりよく噛んで食べる。
ああ、なんて疲れるんだ。
たまに話しかけられたりするとすごく緊張する。
だって目をみて話しかけられたら赤面して倒れそうになるのだから...平静を保つのに必死で給食の味など分からない。
「瀬山さんって好き嫌いないの?」
唐突に聞かれた質問に頭が理解してくれずフリーズする。
「...あぁ、ない...かな...。」
気の効かない返しに後悔の波が押し寄せる。
「あっ!でも酸っぱい食べ物苦手かも!大竹は?」
なんとか言葉のキャッチボールをする。
「俺もないかな...。」
話しが途切れる。二人きりじゃないのでそれ以上何を返してよいのか分からない。もし私が何か話を持ちかけたらこの気持ちがバレてしまうかもしれない。考え出すと止まらない渦の中、ふと疑問が浮かぶ。
「ねぇ、なんでそんな事聞くの?」
杏里は訝しげに聞いた。
「いや、なんとなく。いつも給食残さず食べてるから。」
「ふーん...。」
この人は天然なのか。いつも給食食べてる所やっぱり見られていたんだ。なんだか嬉しいのか恥ずかしいのか分からない気持ちで杏里は胸がいっぱいだった。
放課後。
今日は週二回の部活の日。
昔から絵を描いたり何かを作ったりすることが好きだった杏里は中学に入ったら絶対に美術部に入ろうと決めていた。
もう入って三年。いつもこの美術室が落ち着く場所だったが、後少しでサヨナラか...などと思うとサボらず毎回足を運ぶようになった。
美術部の顧問は無愛想で少し怖かったが、必要な言葉しか発しなかったぶん集中して絵を描けた。
今日はなんの課題だろう、クロッキーは苦手だからやだな。途中だった牛骨の絵があるけど...。などと考えながら好きな席に座る。
すると顧問が美術準備室から出てきた。歩きながらこちらを見ようともせず、吐き捨てるように
「クロッキー」
とだけいうと描きかけの自分の絵を持って教卓の前に座った。自分の世界にもう入り込んでいた。
最初は誰がモデルになるかから話し合う。みな誰もモデルになりたくないので押し付け合い、最終的にはジャンケンで決める。今日負けたのは杏里と同じクラスの男子だった。
嫌そうな顔をしながら木製の四角い椅子に立ち箒を持って静止する。
それを生徒等が丸く囲むように机を持っていき、各々のスケッチブックと2Bの鉛筆を片手にひたすら模写する。
人物を書くのが苦手な杏里。
小さいため息をつきながら席につきスケッチブックを広げる。
鉛筆をひたすら走らせる音だけが響く。
誰も喋る者はいなかった。
「休憩」
沈黙を破る声は顧問の声だった。
モデル役の男子は疲れたのか首を押さえながら頭を傾け、椅子から降りる。
もうこんなに経ってたんだ。杏里は苦手ながらも時間を忘れ、夢中で鉛筆を走らせていた。
遠くの方から沢山の足音と喋り声が聞こえる。どうやら校庭の方から部活の生徒達が来た音だった。
「あっ!まただ。」
同じクラスの風間理香が声を発した。
すると女子はカーテンの寸法が足りていない窓を背にして目を覆う。
野球のユニフォームを着た生徒達が美術室の窓の前で止まり、着替えをし始めた。美術室の前には水道があり、そこで毎回野球部員達は水を飲んだり汗で濡れた身体を洗ったりしているのだ。濡れた上半身が横目に写り混む。
キャーキャー言う声と共にまた理香が声を発した。
「もう先生、いい加減カーテン買い換えて下さい!」
抗議する声をよそに顧問は冷静に言う。
「見なきゃいいんだ。あんなの。」
少し笑った顔が珍しくて杏里は先生の顔から目が離せなかった。先生だって女の人なのに...まあ大人だし見慣れてるか。
正直杏里も理香に同意見だった。目のやり場に困る。見たくないのに見たと言われるのは凄く癪に触るし、なんといっても目の前で着替えてる野球部の部員の中にあの大竹がいるからだ。
今描いていたスケッチブックのクロッキーに目を移し集中するふりをする。
耐えかねて横目で盗み見すると、細いわりに骨格にのる筋肉が綺麗な大竹の身体が目の端に飛び込む。それと同時に大竹の頭が持ち上がり目と目が合った。
一瞬で目をスケッチブックにうつす。
失敗した。目が合っちゃった。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!
胸の高鳴りを抑えながらスケッチブックで赤面した顔を隠した。そんな杏里を理香は怪訝な顔をして見ていた。
杏里は全然気がつかなかった。
