「今日はありがとう。
……
さよなら。」
私の居たたまれない気持ちを汲んでくれたのか、彼はそう言った。
その声はどこまでも優しかった。
これ以上私には彼に償える何事もない…
私は言葉も出なくて、ただ黙って彼に頭を下げた。
振り返りざまにふと見えた彼の笑顔は尊いまでも美しいと思った。
私なんかに向けられるには申し訳ないくらい…
(さよなら…)
私はホームに彼を残し、ひとりコンコースへと続く階段を上る。
仕方なかったんだ。
だって男の人と付き合ったことないし。
そもそもこんな時なんて言ったらいいか分かんないし。
それに知らない人だもん、
仕方なかったんだ…
足取りが重い。
いつもの階段が途方もなく長く感じる。
それを必死に上る。

