これ以上君を傷付けたくなくて、俺は精一杯の笑顔を作る。





「今日は、ありがとう。さよなら。」





俺が言うと、君は一礼して背を向けた。

コートの肩に掛かるマホガニー色の髪が、ふわりと風に煽られる。



これが最後に見る君の姿。



好きだった。



本気で好きだった。



どうしようもなく好きだった。



俺のこと、分からないって?



俺も。



俺も君のこと、知らないことばかりだ。



やっと今日、君の名前を知った。



白鳥かすみちゃん。



可愛い名前。



でも、それでも君のこと、好きだった─