私がおいしい、おいしいカルボナーラを食べきった時には私より前に来ていたお客さんは一人もおらず、途中から来たお客さんでさえ私よりも先に食べ終わり、「おいしかったです」という言葉を残して去って行った、。両親が帰ってくる度に行く外食で幾度となく「食べるのが遅いね」とは言われてきたけど、ここまでとは思わなかった。

「楠木ちゃん、どうだった?兄貴の作ったパスタ」

接客を終え、腰に巻いていたエプロンを外した海堂君は私の隣で仕事終わりのコーヒーを飲みながら聞いてきた。

「とってもおいしかった」

「そっかよかった。兄貴ももう料理作んないし、億アクサンもいないし連れてこよっか」

「えっいいの?」
海堂君は先ほどまでコーヒーが入っていたカップを持って、立ち上がった。

「もちろん。楠木ちゃんがこんなにはしゃいでるの初めて見たしね」

私……はしゃいでたんだ……確かに今までにないくらい気分が高揚していた。だって、こんなにおいしい料理お母さんが作ってくれたハンバーグ以来だったから……

「ちょっと待っててね、今呼んでくる」

注文を取ったときと同じく、カウンターの裏の部屋に入っていった。海堂君のお兄さん……こんなにおいしいパスタを作った人……

「お待たせ」

「初めま……」