10年前、両親が事故で死んだ。

5年前、世話をしてくれていた祖父が死んだ。

つい先日、たった1人の家族である祖母が病で倒れ、入院した。

目まぐるしく変わる私の周り。

運良く私の進路希望を出していた高校近くに下宿があり、私は迷わずそこに入居する事を決めた。





ガラガラガラ




キャリーバッグを転がし、やっと坂を上りきるとふぅ、と息をついた。

顔を上げると目の前には洋風の館があった。

今日からここに住むことになる。

既に高校に入学してから1ヶ月が経っている。

本当は初日からお世話になる予定だったが祖母の入院手続きや、世話があったために入居が遅くなってしまった。




「…よし。」




キャリーバッグの取っ手を掴み直し、ガラガラと転がす。

道が綺麗に舗装されていないせいでガタガタと揺れる。




「今日から入居?」




後ろから声をかけられ、ハッと振り向くと赤茶色の髪の毛の男の子が立っていた。

薄手のカーディガンを羽織り、雑誌の中から飛び出たような出で立ちの男の子に思わず見とれる。

長めの前髪と、髪色とお揃いの瞳。

ぱっちりとした眼は長い睫毛に縁取られていた。

私よりも20cm程度高い身長は軽く見上げなければならない程だった。

ジーンズに手を突っ込み、一見警戒心は微塵も感じられないが、こちらを訝しむように観察している。




「そうですけど。」




ここの下宿生だろうか?

同い年…?

それとも年上か。

こちらまで訝しむ目付きになる。

男の子は「あっそう」と呟くとスタスタとこちらに歩いてきた。

奪うように私からキャリーバッグの取っ手を取るとガラガラと転がしていってしまう。




「あっ、ちょっと!」


「僕、ここの下宿生。
今日から宜しく。」




顔だけ振り向かせ、ぶっきらぼうにそう言うとそのまま館の中に入っていってしまった。

な、何なのあの人…。

あ、私のキャリーバッグ!

慌てて彼の背中を追った。

5月の爽やかな風が私の髪を撫でるように吹いた。