彼の眠っている寝顔をもう一度見てから、
あたしは彼の部屋を出た。



リビングに置いてあるCDをチラッともう一度だけ確認して
勢いよく鞄を持ち上げて彼の家を出た。



苦しい…苦しい…

苦し過ぎる。



先程、彼が開けてくれた黒い扉を今度は自分で開けて…あたしは彼の部屋を後にした。



勢いよくエレベーターまで行くと同時に扉が開いて…



「あっ…」



「夕佳里ちゃん!」



驚いているあたしに鈴木君はニコッと微笑む。



「なんかごめんね。変な事頼んじゃって…健永どう?」



「ううん、いいよ。…あ、麻生君なら今、寝てる」



鈴木君に対して麻生 健永の名前を今…口に出す事は少し辛かった。



「そっか……えっ?健永の部屋に入ったの?」



納得した様に微笑むと今度は驚いた表情であたしを見てくる鈴木君。



「あーお粥作ってって頼まれてたの。お粥食べて、薬飲んで…今は寝てるから」



「あっ…そうだったんだ」



「それじゃ、あたしはこれで…」



軽く頭を下げてエレベーターに乗り込んだ。



鈴木君は笑顔で小さく手を振ってくれていて…


そんな鈴木君に重たかった気持ちも少しだけ軽くなった様な気がした。