「離して…!」


アンバーは思わず叫んだ。


「いやだ!」


それを遮るようにファシアスも叫んだ。


「守ると誓った!俺はあんたを絶対に守る!それに…」


ファシアスは口端をあげた。


「さっきの返事を聞いていない。あんたの気持ちを聞くまでは、絶対に離さない」


引っ張られる腕の痛みよりも鋭く熱く、胸が痛んだ。
その声、笑顔、力強い腕…どれほど大切か。なくてはならないものか…。


(…私の気持ちなんて…とうに決まっていたわ…)


だが、涙で歪む視界の中に、見たくない光景が広がった。
淡い月光にうかびあがる白い剣―――ファシアスの背後で振りかざされ、真っ直ぐ落ちる―――。


「ファシアスーーー!!」


アンバーに微笑む顔が、微妙に強張った。


悪ぃ…。


そう伝えるかのように見える顔が、ゆっくりと近づいてくる。同時に、身体が崖下へ吸い寄せられる。
兵が背に突き立てた剣は、完全にファシアスの力と生命力を奪ったのだった。

二人はまっさかさまに崖下に向かって落ちていった。