「待てなくなっちゃったんだよね、」


と千夏は言っていた。



昨日の夕方、クラスの出し物を完全なる上の空でやりきった後、僕と千夏は窓ぎわの手洗い場で洗い物をしていた。

昨日は夕焼けがすごくきれいだった。





「今まで頼斗の気持ちを勝手に推し測ってみたり陸の意見も聞いてみたりしてきたけどさ、」


「うん」




「行けそう、このまま行ったら付き合えるかもしれない、ってそんなことばっかり無責任に期待しちゃってさ、」



「…」



「結局それから何も起きないじゃん?だから、私から行動を起こしちゃおうと思って」

待てなくなっちゃったんだよね、なんか。





バケツに注がれる水が急に生ぬるく感じた。
相変わらず僕は何も言えなかった。



千夏のこれからを多かれ少なかれ、いじってしまうようなことをずっと考えて隠しているのに。
千夏が心から望んでいることが、本当は嫌で嫌で仕方ないのに。





「いつ告白するの?頼斗には」

それより前のタイミングでこっちが告白できればいいのだ。



「うーん、やっぱり片付け一通り終わってから、かなぁ」

他の生徒会役員の子たちに迷惑かけられないし。



それなら、話は早い。
僕が千夏より遅くなることは無さそうだ。

誰かと付き合う前の、最後の千夏に僕は思いを伝えなくちゃいけないんだ。

そう思えた昨日の夕方だった。