「す、すみません!」
駅前に近づいてきたので、僕たちの列は時折人ごみにまきこまれる。
人ごみに埋もれては何度も肩をぶつけて、迷惑そうにすれ違っていく人たちに謝り倒す。
メッセージは全くもって送られてこない。
それぞれは個々の携帯ばかり見ているから、お互い離れてときどき見失いそうになる。
勝負本番が近づいているのに、先がわからない恐怖でやけに心拍数が上がってきた。
「あっ」
メッセージだ!
『陸!動くな!お前はそこにいろ!!』
行き交う観光客の中で、突如として立ち止まる僕。
そっか。
そういうことか。
ここで千夏と二人きりになれれば作戦は成功だ。
心の中でガッツポーズをしかけたそのときだった。
ツアー客たちがはけて少しだけ視界が良くなった駅前で、僕は重大なことに気づいてしまったのだ。
「千夏が…いない」

