太陽に手を伸ばしても





そのころ、引っ越していく人は世話になったクラスメイトにものを配るというのが一種のしきたりのようなものになっていた。

それで僕も引っ越すとき、お母さんが近所の文具店で買ってきた鉛筆と消しゴムをクラスのみんなに配ることになった。


鉛筆と消しゴムを1こずつ、小さい紙袋に入れて、そこに新しい住所を書いた紙切れを貼った。

今までありがとう、また遊びに来てね、みたいな簡単なメッセージを添えて。




卒業式の前の日、クラスでなんでもバスケットをやった後、僕のためにささやかなお別れ会が開かれた。

確か、智己はすっごく泣いてくれた。
持っていった紙袋を手渡したとき、よくわからない言葉を叫びながら僕に抱きついてきた。

もらい泣きするのを僕は必死こいて我慢してたことを覚えてる。
 
だけど、結局、千夏には何も言えずに終わってしまった。



それが悔しくて、千夏にもう一度会いに行く口実を作りたくて、その日、学校が終わってから急いで隣の学区まで自転車を飛ばした。

いつもはお母さんとしか入らないような、こじゃれた雑貨屋で、ネコのストラップを買った。

結局、千夏の家に持っていったのはいいけど、家にはお母さんしかいなくて、直接会うことはできなかったのだけれど。





「そんな古い話、忘れてた」


「そっか」




しばらく、間があった。




「ありがとうな」

僕はストラップをカバンにしまった。


そこで、携帯がまた震える。

智己からだ!