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「ほんと、生きた心地がしなかったの。……って、あれ? ねえ、どうして笑ってるの? 透さん」
つい先ほどあった出来事をすぐにでも報告したくて透に電話をしたのだが、途中から笑い始める始末。
『ごめん。時任の役員会議で美鶴がどんな顔で座っていたが、想像したらおかしくて……つい』
「もう! 私は透さんのために必死で頑張ったのに?」
会議では四季リゾートとの事業提携を結ぶ前提で話は勧められたのだが、社長である透からの正式な依頼があるまでは水面下で準備を進めていくということだった。
『悪かったって。俺のために慣れない環境で頑張ってくれたんだよな。今すぐ抱きしめてキスしたい。電話なのが辛いよ』
「透さん今日は帰ってくる?」
抱きしめてキスをしてくれたら今日の疲れも一瞬で吹き飛ぶだろう。美鶴の期待とは裏腹に少し間が開いて聞こえきた透の声は沈んでいた。
『すまない。おそらく帰れないだろう。時任と事業提携について早急に動き出さないとならないからな』
「そう、ですよね……でもあまり無理はしないと約束してください」
『約束するよ。君に甘えてばかりだな』
「お互い様です」
「ありがとう。愛してるよ美鶴。今夜美鶴が寝る前に電話をくれるか?』
「はい。必ず」
離婚の危機を乗り越えてからというもの、透は以前よりも美鶴のことを気にかけることが増えた。美鶴も祖母とのかかわりを通して透の仕事への理解がより深まりつつあった。夫婦としてお互いを思い合えるよい関係が築けていると強くそう思っていた。


