凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない


「おばあちゃんと透さんのお父様って知り合いなの?」
「そうよ」と八重子は含み笑いを浮かべる。
「せっかく再会できた孫が、仇の息子に嫁いでいるなんて、世の中何があるか分からないわねぇ」
「……仇ですか? 父のやり口では恨みをかうことも多かったと思いますが……」
 困惑しながら答える透に八重子はゆっくりと首を振った。
「そうではないの……きっとあなたは知らないと思うけれど、遠い昔志木会長と私の娘、聡美と婚約していたことがあったのよ」
「父と!?……」と透は言葉を詰まらせる。まさか自分たちに血の繋がりがあるのではないかと想像に震えた。
それは美鶴も同様だった。まさか母が透の父親とつながりがあったなんて。
「驚かせてごめんなさい。でも話しておいた方がいいと思って」八重子はそう言って、紅茶を一口飲むと話を続けた。
「当時の志木会長はプレイボーイで有名だった。一代で会社を大きくした手腕があってハンサムで豪快で、女性の方が放っておかなかったのよね。婚約まではしたけれど結婚式の日取りが決まらず、もたもたしているうちに聡美はどこの馬の骨ともわからないカメラマンと駆け落ちしてしまった……あの時聡美と志木さんが結婚していたら若くして天に召されることもなかったのにと彼を恨んだこともあったわ……」
「申し訳ございません……」
 透は静かに頭を下げた。
「顔をあげて。あなたが謝ることじゃないの。すべてを投げ捨ててでも一緒になりたい人と結婚して、こんなにかわいい娘を授かって聡美は幸せだったと思うから……それになんの因果か孫同士が惹かれ合って結婚した。美鶴にも会えた。これで私も本格的に隠居生活が送れそうよ」
 八重子は窓の外を見つめて、それからゆっくりと目を閉じた。