凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない


「こんにちは」
 美鶴が挨拶すると女性は持っていた花束をバサリと地面に落とした。
「聡美!? あなたどうして……」
 いいながら美鶴の両腕を掴んだ。気が動転しているのか何度も「聡美」と繰り返す。
「待ってください。聡美は母の名前です」
美鶴の言葉で女性は我に返った。そしてまじまじと美鶴の顔をみつめる。
「……母? ああ、そうだわ。聡美は死んだはず……じゃあ、あなたは……」
「娘の美鶴です」
「みつる?」
「はい。白川美鶴です」
「ああ、なんてこと。美鶴ちゃん?こんなに大きくなって……ごめんなさいね。今まで何もしてあげられなくて本当にごめんなさい」
 女性は手を合わせるとまるで力が抜けたかのように地面に膝をついた。透が手を差し出すよりも早く背後からスーツ姿の男性が抱え込む。
「会長。大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。気が動転してしまって……まさか娘の誕生日に孫に会えるなんて思わなかった」
 女性はハンカチで目頭を押さえる。
「……孫? もしかして、あなたは私のおばあちゃん?」
 初めて見て祖母はどことなく母に似ていると美鶴は思った。
「そうよ。私は時任八重子。あなたの祖母です。そちらの男性は?」
 八重子は透に視線を向けた。
「彼は……」と美鶴は言い淀んだ。夫とはもう言い難い。すると透は一礼し、口を開く。
「初めまして。志木透と申します。美鶴さんの夫です」
「志木? そう、結婚したのね、美鶴ちゃん。あなた今、幸せ?」
 八重子は美鶴へ微笑みかける。
「……はい」
 ズキンと胸が痛んだ。はじめて会う祖母に今日これから離婚するなどとは口が裂けても言えない。
「ねえ、あなたたち。これから家にいらっしゃい。ランチご馳走させてちょうだい」
――行きたい。でも透さんはどう思うだろう。きっと気まずい思いをするはず……。
美鶴は透を見た。すると透は「美鶴が決めていいんだぞ」と頷く。
「私は、行きたいです。おばあちゃんともっと話がしたい」
 自分の知らない母のことを沢山聞いてみたかった。
「決まりね」
 八重子と共に墓地を出た。