「ここだ。みてごらん、美鶴」
透に促され墓石に刻まれた文字を見る。
「SATOMI TOKITOU」
時任里美――時任は美鶴の実母の旧姓だ。
「……ママ?」
「ああ、そうだ。ここに眠っているのは君のお母さんだよ。白川で探したが見つからなくて、旧姓の時任で探してもらったんだ」
透は跪き、墓に花を手向ける。
「美鶴さんを幸せにできなくて申し訳ございませんでした」
――ああ。その背中に抱き付いて愛していると伝えたい。でもできない。
美鶴は自分の気持ちにブレーキを掛けるように唇を噛む。
「覚えていてくださったんですね。ありがとうございます」
「当たり前だろう? 美鶴とのやり取りは全部覚えているよ。初めて君を見た時から俺は君に惚れていたからな」
「私もです」と伝えようとしたとき、
――「どなたかしら?」
ひとりの女性が不思議そうに首をかしげながらこちらへ近づいてくる。白髪で上品なベージュのスーツを着ている。年齢は八十代くらいだろうか。



