凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない


『はい、冴木です』
「もしもし。美鶴です。決めました……透さんと離婚します」
 そういった途端に後悔が溢れてくる。けれど、自分が透を救う方法はこれしかないのだ。そう心の中で何度も言い聞かせる。
『そうですか。お早いご決断ありがとうございます。ご両親の牧場への支援は継続いたしますのでご安心ください』
 冴木の声は弾んでいた。美鶴と離婚しても松田組の令嬢と結婚を承諾するとは思えないのだが、そこから先はもう透と志木家の問題であり美鶴にはもうどうすることもできない。
 仕事を終えた美鶴は自宅に戻り離婚届を広げた。薄い紙一枚。こんなものでようやく通じ合えたふたりの関係が終わる。
何度もペンを握り、おいてを繰り返す。
「でもこれは透さんのため……」
美鶴は震える手でサインをする。それから指輪と一緒にリビングのテーブルの上に置くとコトンとやけに大きく響いた。
美鶴はキャリーバッグに必要最低限の荷物を詰め込んだ。高価なドレスには触れなかった。今後着る機会はないだろうし、見る度に透を思い出してしまいそうだ。