更衣室へ入ると町田の姿があった。
「おつかれさまです」
美鶴は普段通り声をかけたが町田は小さく会釈するだけだ。最近町田がよそよそしい。入職した当初共通点が多いといって仲良くしてくれていたのだが、美鶴が既婚者だと分かったとたん態度が変わってしまった。美鶴は以前のように他愛のない会話を楽しめるような関係に戻りたいと思っているのだが、どうすればよいのか分からずにいた。
「町田さん……」
意を決したように美鶴は話しかける。
「ごめん、急いでるの」
町田はそっけなく答えて更衣室を出ていってしまった。美鶴はため息を吐く。話すら聞いてもらえないのか。力なく肩を落とした。着替えて駐車場に向かい、透の車の助手席に乗り込むと透は美鶴の顔を覗き込み「なにかあった?」と聞いてくる。顔に出ていたのだろうか。
「なにもないですよ。今日は少し疲れたなって思って……それより、藤島先生?でしたっけ。透さんの同期の先生が院内にいらっしゃるなんて驚きました」
町田とのことは透を巻き込む問題ではない――と美鶴は笑顔で他の話題を振った。
「藤島ね。彼はああ見えてとても優秀なんだ。人手が足りないから働かないかと事あるごとに連絡をよこしていたから。でもこの病院に美鶴が働いていなければオーケーすることもなかったよ」
透は美鶴の手を握った。そのまま持ちあげてチュッと唇を押し付けると愛おしむような目で美鶴をみつめる。
「このまま医者として完全復帰すればもっと美鶴と一緒にいられるんだけどな。美鶴はどう思う?」
「私ですか? 私は透さんが好きな仕事をして、毎日健康で幸せでいてくれたら十分です」
美鶴は本音で伝えたつもりだが透はどこか不満げだ。
「ありがとう。でも俺が聞きたいのはそういうことじゃないんだけどな。美鶴は俺の事どう思ってる?」
「どうって、尊敬してます」
「それから?」
「仕事が出来て、かっこよくて優しくて、見つめられるだけで胸がドキドキして」
美鶴は自分の頬が紅潮していくのを感じていた。ずっと秘めてきた言葉をそれも本人の目の前で口にするのは恥ずかしさの極みだ。
「うん、続けて?」
「私って透さんのことが本当に好きなんだなって思うんです。だからもっと一緒にいた……」
いい終わらないうちに透の唇でふさがれる。驚いて顔を離そうとしたが頭の後ろにある透の手に阻まれてしまった。
「逃げるなよ」
「だって、誰かに見られちゃうかもしれないから」
建物の外に出たとはいえ病院の敷地内だ。車のすぐ脇を誰かが通らないとも限らない。
「……確かに、それは困るな。美鶴のかわいい表情は誰にも見られたくないからな」
透はまるで惜しむように体を離すと車のエンジンをかけた。
「おつかれさまです」
美鶴は普段通り声をかけたが町田は小さく会釈するだけだ。最近町田がよそよそしい。入職した当初共通点が多いといって仲良くしてくれていたのだが、美鶴が既婚者だと分かったとたん態度が変わってしまった。美鶴は以前のように他愛のない会話を楽しめるような関係に戻りたいと思っているのだが、どうすればよいのか分からずにいた。
「町田さん……」
意を決したように美鶴は話しかける。
「ごめん、急いでるの」
町田はそっけなく答えて更衣室を出ていってしまった。美鶴はため息を吐く。話すら聞いてもらえないのか。力なく肩を落とした。着替えて駐車場に向かい、透の車の助手席に乗り込むと透は美鶴の顔を覗き込み「なにかあった?」と聞いてくる。顔に出ていたのだろうか。
「なにもないですよ。今日は少し疲れたなって思って……それより、藤島先生?でしたっけ。透さんの同期の先生が院内にいらっしゃるなんて驚きました」
町田とのことは透を巻き込む問題ではない――と美鶴は笑顔で他の話題を振った。
「藤島ね。彼はああ見えてとても優秀なんだ。人手が足りないから働かないかと事あるごとに連絡をよこしていたから。でもこの病院に美鶴が働いていなければオーケーすることもなかったよ」
透は美鶴の手を握った。そのまま持ちあげてチュッと唇を押し付けると愛おしむような目で美鶴をみつめる。
「このまま医者として完全復帰すればもっと美鶴と一緒にいられるんだけどな。美鶴はどう思う?」
「私ですか? 私は透さんが好きな仕事をして、毎日健康で幸せでいてくれたら十分です」
美鶴は本音で伝えたつもりだが透はどこか不満げだ。
「ありがとう。でも俺が聞きたいのはそういうことじゃないんだけどな。美鶴は俺の事どう思ってる?」
「どうって、尊敬してます」
「それから?」
「仕事が出来て、かっこよくて優しくて、見つめられるだけで胸がドキドキして」
美鶴は自分の頬が紅潮していくのを感じていた。ずっと秘めてきた言葉をそれも本人の目の前で口にするのは恥ずかしさの極みだ。
「うん、続けて?」
「私って透さんのことが本当に好きなんだなって思うんです。だからもっと一緒にいた……」
いい終わらないうちに透の唇でふさがれる。驚いて顔を離そうとしたが頭の後ろにある透の手に阻まれてしまった。
「逃げるなよ」
「だって、誰かに見られちゃうかもしれないから」
建物の外に出たとはいえ病院の敷地内だ。車のすぐ脇を誰かが通らないとも限らない。
「……確かに、それは困るな。美鶴のかわいい表情は誰にも見られたくないからな」
透はまるで惜しむように体を離すと車のエンジンをかけた。


